【感想メモ】凍りのくじら

人が薦めているのを見て読んでみました。
途中、何度か泣きました。

 

家でも学校でもトモダチといても、どこか現実感がなくその場をくだらないなどと見下してしまう"スコシ・フザイ"な主人公・理帆子。

この小説を読む前、「読み初めは理帆子に共感しづらい」という評価を聞いていたのですが、私はこの主人公に最初から共感しまくりました。理帆子の言っていることはとても理解しやすかった。それは、よくぞ言ってくれたとさえ思うほどでした。(なので、冒頭から共感している自分に不安を覚えつつ読み進めることになります)

 

若干不安を感じつつも、理帆子の脳内描写に小気味よさを覚えながら読んでいたのですが、若尾が出てきた辺りから分からなくなります。
なんで理帆子ともあろう人が1人の男性に執着するのだろう、と。
それでも読み進めるうちに「理想主義な若尾は自分と同様に世界に不在で、馬鹿にできる。自分より劣るから執着できる」みたいなくだりがあって、「なるほど、自分より重症な若尾を見ていると安心するのか」そんな風に納得しました。

 

泣いたのは汐子の外泊がダメになった場面と、汐子の葬儀の場面。
仲良し親子ではないけれど、理帆子にとって、汐子との関係だけがスコシ・フザイではない、不器用で小っ恥ずかしい地に足のついた関係のように思えていました。

そんな汐子が亡くなり、この先理帆子はどうなるんだろうと不安に思っていたのですが、葬儀に訪れた同級生や校外の友達、郁也との間にもちゃんと居場所があったことを理帆子が感じ取れた場面があり、安心し、そしてここに一番泣きました。

理帆子の居場所を汐子が命を懸けて教えてくれたような気がして。

 

最後に別所の正体が分かるところは予想外で唐突な展開のような気がしたけど、冒頭の「その光を私は浴びたことがある」「もう何年も昔、私はそれに照らしてもらったことがある」に繋がったところで、海底や遠くの宇宙まで照らせるような写真を信念とする芹沢理帆子という写真家が本当に存在するかのように思えて、唐突だけどなんか納得!みたいな印象に変わりました笑。

たしかに、父親のカメラを使って理帆子を撮る場面では、別所と理帆子のどちらがシャッターを切っているのか分からんな?と思いながら読んでいました。
タネ明かしされてから振り返ると、その場面はすごく映像的な感じがします。ドラマや映画だったら映像を切り貼りして、カメラマンと被写体を曖昧に見せる演出が容易に想像できますが、それを文章だけで上手いこと乗り切ってるのは流石だなぁと思いました。

 

最近小説なんて全然読んでいなかったのですが、久しぶりに読んだ小説がとても良い作品で感動しました。勢いで辻村さんの別の作品「傲慢と善良」も買っています。楽しみです。

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私もどこにいても居心地が良くなくて、
「周りの人たちはなんでこのノリが楽しいんだろう」
「なんでその旅行が楽しみなんだろう」
「なんでそんなに素でこの場にいられるんだろう」
と思うことが多く、自分をどう振る舞わせていいか戸惑うばかりでした。なので、くだらないと馬鹿にしつつも周りに合わせていける理帆子より不器用ですよね、、

登場人物の中で一番怖いのは若尾の存在でした。
クレイジーだからというだけではなく、実は私の中にも若尾がいると思ったからです。
理帆子との会話の中で若尾が絶望的に空気の読めないズレたことを言い、「なんでこの流れでそんなことを言い出せるのか」と理帆子の背筋を冷たくさせる場面があるのですが、
いや、こういうこと、私も言いそう。
と容易に思い当たり、しっかりめに戦慄しました。

 

・・・今後は自分の言動に慎重にならざるを得ません。
できることなら、大至急どこかで情操教育を受けたいです

/*** Original ***/